夏になると、気になる慣習の一つに「土用の丑の日」がありますね。
たいていの人はうなぎを食べる日でしょ、と思うかもしれません。
勿論、多くの人がうなぎを食べているのも事実です。
かく言う私もうなぎが大好きなので、よく食べるのですが。
でも、これには、商売上の戦略的な要素が多分に含まれているということを知っているでしょうか。
今回は、土用の丑の日の由来やなぜうなぎを食べるのかについて見ていきましょう。
また、うなぎ以外に食べるものについても見ていきましょう。
土用の丑の日の由来とは何なの?
そもそも、土用とは何なのでしょうか。
週末の土曜ではありませんよ。(汗)
土用は、中国の陰陽五行の思想が起源になっています。
これは簡単に言うと、全てのモノは、
「木(もく)」・「火(か)」・「土(ど)」・「金(ごん)」・「水(すい)」
の5つの要素から成り立っているという思想です。
この5つを季節に割り当てると、
「春-木」・「夏-火」・「秋-金」・「冬-水」
となって、「土」だけが余ってしまいました。
そこで、各季節の終わりの18日間に「土」を割り当てるようになり、「土用」となったのです。
即ち、立春→春土用→立夏→夏土用→立秋→秋土用→立冬→冬土用→立春というようになります。
このため、本来は各季節に土用が存在するのですが、現在では夏の土用だけが慣習として残っています。
また、この土用は、元々は「土旺用事」と言われていたものが省略されたとされています。
そして、丑の日の「丑」は十二支である「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の「丑」のことです。
各土用の中で、丑の日にあたるのが「土用の丑の日」ということになります。
現在では、夏土用の丑の日に鰻を食べるという慣習として有名になっています。
これが、よく言われる「土用の丑の日」ということですね。
土用の丑の日にうなぎを食べるのはなぜ?
このような由来のある「土用の丑の日」ですが、なぜうなぎを食べるのでしょう。
これにはいくつかの説があるのですが、最もよく知られているのが平賀源内説です。
平賀源内は、江戸時代中期に活躍した学者で、日本のダ・ヴィンチとも呼ばれる博識者です。
夏の暑い時期にうなぎが売れなくて困っている鰻屋に相談された平賀源内が、
【本日 土用の丑の日】
と書いた貼り紙を出すようにアドバイスしています。
その結果、その鰻屋は大繁盛したと言われています。
その後、他の鰻屋も真似するようになり、土用の丑の日にうなぎを食べるという慣習が広がっていったんですね。
さすが、平賀源内です。
まるで、コピーライターの元祖みたいな存在と言えるでしょう。
当時の人達が、そのキャッチコピーにうまく乗せられてしまったのですから。
このような背景には、夏の土用の時期には暑さも厳しく夏バテを起こしやすいことから、昔から精の付くものを食べるという習慣があったともされています。
古くは、平安時代にもそのような風習があったことが万葉集などからも伺えます。
万葉集の中には、歌人である大伴家持が詠んだものがあります。
「石麻呂に言おう、夏バテにいいとされるうなぎをとって食べろ」といった意味でしょうか。
土用の丑の日にうなぎ以外に食べるものは?
このようなことから、土用の丑の日にうなぎを食べるようになったのです。
しかしながら、うなぎが嫌いで食べられない人にとってはどうでもいい話ですよね。
「え~、あんなヘビみたいなもの、よく食べられるな!」と言ってる人もいますし。
私にしてみれば、うなぎが嫌いというのがなかなか理解できないのですが。
まあ、好みは人それぞれですから、仕方ないですよね。
なので、うなぎが食べられない人でも、この時期夏バテを解消するのにふさわしい食べ物を紹介しましょう。
一説には、土用の丑の日には「う」の付くものを食べればいいとも言われています。
「うどん」や「梅干し」、「うり(きゅうり、スイカ)」などが挙げられるでしょう。
ただ、これはその信憑性が定かではありません。
だからと言って、食べてはいけないとうことではありませんが。
むしろ、土用の丑の日にピッタリの食べ物があるのです。
それは、「土用蜆(しじみ)」・「土用餅」・「土用卵」です。
「何、それ?」という声が聞こえてきそうですね。
実は、れっきとした食べ物なんです。
勿論、それらから「土用」という文字をとれば、日頃から慣れ親しんだ、極めて普通の食べ物です。
でも、敢えて、「土用」と名付けられているのには、その理由があるのです。
土用蜆
しじみと言えば、滋養強壮に効果的な食べ物と言われています。
特に、お酒を飲んだ翌日に、しじみの味噌汁を飲むと肝臓にいいとされています。
これは、タンパク質やビタミン、ミネラル、オルチニンやタウリンなどのアミノ酸が豊富に含まれているからです。
蜆は、手軽に入手できる上に、健康にもいいということで庶民の味方ともいえるでしょう。
しかも、土用の時期は蜆の旬でもあるのです。
蜆には夏と冬の2回の旬があり、それぞれ「土用蜆」・「寒蜆」と呼ばれています。
夏バテで弱った身体には、蜆の味噌汁が美味しくていいですね。
土用餅
餅にも「土用」があったというのは、いささか意外な感じを受けることでしょう。
一般的に、餅は正月に食べるものという認識が多いからかもしれません。
この土用餅は、土用に食べる「あんころ餅」のことです。
あんころ餅は、餅の周りを小豆餡で包んだ和菓子ですね。
その昔、宮中の公家には、土用の丑の日に、ガガイモの葉を煮出した汁で練った餅を味噌汁に入れて食べると暑気あたりしない、と言われていました。
ガカイモとは、つる性多年草の植物でイモと言うよりは野草という感じですね。
それが、江戸時代になると、小豆餡で包んだ餅を食べるように変わってきました。
餅には力餅、小豆には厄除けといった意味もあり、それが土用餅になったとされています。
現在でも、関西や北陸地方の一部では土用餅を食べるという慣習が残っています。
有名なあんころ餅としては、伊勢の赤福がありますね。
最近では、白餡のものも出てきて、凄く人気があります。
土用卵
卵は、ご存知のように完全栄養食とも呼ばれる食品です。
タンパク質を始め、カルシウムや鉄分、必須アミノ酸なども含まれており、効果的な栄養補給ができるからです。
元々、ひよこの成長に必要な栄養が全て詰まっているわけですから、これほど栄養価の高い食べ物はないとも言えます。
その卵が土用の時期に産み落とされたものが、「土用卵」と呼ばれているものです。
卵を夏バテしやすい土用の時期に食べるというのは、実に理にかなっているといえるでしょう。
昔の人の知恵には、思わず感心させられてしまいますね。